盗みの正体
夜咄 頼麦 作
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賽銭が盗まれた。
許してはならない。
怒りで鼓動が速まる。
いったいどこの馬の骨が盗んだのか。
坊主頭をこすって今日のことを思い出す。
寺に来たのはさっきの痩せた少年くらいだろう。
思えば確かに挙動のおかしなところがあった。 奴は確かよく隣の公園に遊びに来ていた。
ボール遊びをする子たちを追い出して公園を独り占めしたり、 花壇の花を勝手にいじって土を荒らしたりしていた。 あの子が盗んだに違いない。
私は走り出した。
賽銭箱は小さいものだったが、問題は金額ではない。
普段の悪行に加え、ものを盗もうという根性がいけない。
見つけてこっぴどく叱ってやろう。
もう日没が近いが、急げばまだいるかも知れない。
鳥居をくぐって階段をおり左に折れて公園へ走る。
はたして、そこに少年はいた。
ゴトン。
彼はちょうど自販機でペットボトルを買ったところだった。
走ってきた勢いそのままに少年に詰め寄る。
「お賽銭を盗んだのは君か!」
少年はペットボトルを取り上げたところで固まり、
片手で握っていた残りのお金を落とした。
「人の願いを盗むなんてバチが当たるぞ」
少年は何も言わずに花壇を見つめている。
なんの返事もないことに私の怒りは沸騰した。
「何か言わんか!警察に連れて行ってもいいんだぞ!」
少年は震える手で水を握りしめ、目を潤ませてこう言った。
「だってお花が枯れそうだったから」
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こどもなりに、何かするときには、理由がありますよね。
大人は、結果のみに目を向ける前に、落ち着いて理由を聞いてあげてほしいですね。
難しい答のないお話ですね。
少年の日頃の行いからみたら、とても想像のつかない理由の盗み。しかし、理由はともあれ盗みは盗み。そこは、ちゃんと諭さなければならない。でも、彼の花が枯れてしまうと言う優しい心も大変素晴らしいことでほめるべき。
傍から見た彼の普段の行いは、とても良いものとはかけ離れた様子。でも、本当にそれだけが真実だったのかは当事者しかわからない。彼にも彼の理由があっての行いだったのかもしれない。
今目の前にある結果だけが全ての判断材料では無い。しかし、主観的になりすぎるのも良くないし、客観的にのみ見るのも如何なものなのか疑問。
感情や心の表現が豊かな人間だからこそ、色々な見方がある。ほめるべき点、叱らなければならない点も見誤らずに子育てするのは難しい。でも、先に生まれ長く生きる者として、これから成長していく若い者にダメなもの、ほめるものの区別はちゃんと理解してもらいたい。
伝えるって、簡単であり、難しいですね。
行為を叱り
想いを誉める
大人が伝えることって大事ですよね
伝え方が肝心なのかも
今後の少年の生き方に関わる
難しいシチュエーション
考えさせられました。