瀬戸の三毛猫
夜咄 頼麦 作
この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。
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陶磁器で彩られた路地を歩く。
足元には陶器のタイル。高台へ続く階段にも色とりどりの磁器が貼られている。
程よく緑の茂った道路脇にまで、この土地の名産品が散りばめられ、調和している。
かつて、焼き物の街として隆盛した面影を残す風景には趣がある。
陶器の生垣、巨大な焼き窯、煙を吐かない煙突。
閑静な坂道をそろりそろりと上っていると、鈴の音とともに一匹のネコが現れた。
カメラを向けると、ぷいっとそっぽを向いてしまったが、
慌てて逃げるでもなく、泰然としている。
きっと、この街の空気を一身に吸って生きてきた猫なのだろう。
駅までの帰り道、本通り沿いに若いアーティストの陶磁器が土産物として売られていた。
変化の激しい時代の中で、焦ることなく伝統と文化を引き継ぎ、時間をかけて醸成している。
新しきのみを追い求めず、古き良き知恵と技術に根差す。
その知的営みの穏やかさを旅の者に教えてくれた猫であった。
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