夜の禊
夜咄 頼麦 作
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この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、この原作ページのURLを作品などに掲載していただきますよう、お願い申し上げます。
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夜が深まり、街の灯りが静かに薄らいでいくころ、ルリは寝室の窓を開け、そよぐ夜風に耳を澄ませました。遠くの木々の葉擦れが心臓の鼓動を落ち着かせ、月の雫のような銀色の光が庭に並んだラベンダーをそっと照らします。
「今夜こそ、やすらかな眠りにつけますように」
そう願った瞬間、涼やかな鈴の音がひとつ響きました。音とともに淡い光の粒が集まり、手のひらほどの光の精霊へと形を整えます。精霊は透き通る羽衣を揺らしながら、やわらかな声でささやきました。
「怖れず、こちらへ」
導かれるままに庭へ降りますと、生垣の奥に隠れていた古びた鉄の扉が音もなく開きました。扉へ続く月の光に照らされた小径には、淡く青い石畳が霧を吸い込むように輝いています。小径は扉の向こうにも続いていました。ルリが扉をくぐると、背中で扉は静かに閉じ、辺りにはラベンダーの香りだけが残されました。
小径の先には、背の高い木々に守られた静かな広場がありました。広場の真ん中には夜空を映す鏡のような泉があり、澄んだ水面の中で星と月の光が輝いています。ふと見ると、泉のそばで灰色の猫がこちらを見ていました。穏やかな金色の瞳は温かく輝き、心の底まで見透かされそうです。
猫は小さく首をひねり、優しい声で言いました。
「ここで心を洗うんだよ」
ルリは恐る恐る泉に近寄り、少しかがんで手を差し入れました。水は薄金色に染まり、広がる波紋が星の形を描きます。星のような光はゆっくり夜空へ昇り、辺りは穏やかな温もりで包み込まれました。
木々は細やかな葉音で子守歌を奏で、ラベンダーの香りが胸を満たします。光の精霊はルリの肩にそっと触れ、散りたての羽のような温もりを残しました。まぶたが自然に重くなってきましたので、ルリは泉の縁に腰を下ろして静かに目を閉じました。
「おやすみ。良い夢を」
その言葉が夜に溶けると、猫はやわらかな鳴き声をひとつ残し、精霊とともに星明かりの奥へ姿を消しました。広場を渡る風は遠い潮騒のように緩やかで、ルリは深いまどろみへと導かれていきました。
気がつくとルリは自室のベッドに横たわっていました。窓は閉ざされていますが、胸には泉の静寂が灯り、息を吸い込むと優しい残り香がしました。窓からは柔らかな月の光が差し込み、穏やかな夜の奇跡をそっと引き継いでくれています。
ルリは深く息を吸い込み、眠りは戦う相手ではなく、仲良くできる大切な友達なのだと、心で感じました。今日こそは、ゆっくりと眠ることができそうです。ルリがゆっくりと毛布に身を包むと、精霊の鈴の音が耳の奥で聞こえた気がしたのでした。
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ねむりへ誘う精霊、素敵なお話をありがとうございます頼麦さんの朗読で、ぜひこのお話をきかせていただいたいです☺️
頼麦さんのお声も、この精霊とおなじで優しく眠りへ導くありがたい存在となっております
何だろう….何回読んでもいつもの頼麦さんを感じられない。
いつもは、優しさ溢れる頼麦さんを感じるのですが。
キャスを聴いた後にも、何回も読んでみたのですが、、頼麦さんのいつもの作品とは違った感じがして、その気持ちが拭えません。
消化するのにもう少し時間がかかりそうです。
キャスで、途中まで読んでいただいた感じは、「らしさ」が滲んでいたのですが。
変な感想で御免なさい。