下呂の雪風呂
夜咄 頼麦 作
この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、この原作ページのURLを作品などに掲載していただきますよう、お願い申し上げます。
冷たい風の吹く12月、温泉に浸かりたい、と思い立って日帰りで山間の温泉街へ出かけた。
予約をせずとも空席の目立つ昼過ぎの高速バスに乗り込む。
見慣れた都会の景色が次第に移り変わり、ビルが住宅地になり、川を渡ると住宅地が田畑になり、次第に林が立ち、山間部に入り、木々が雪化粧を始めた。
到着した駅のバスターミナルはめっぽう寒く、着込んだはずのコートがまるで意味をなさないほどに、身の凍える寒気である。
あたりは一面の雪景色だが、少し前に雨かみぞれが降ったのだろうか、路面の雪は解けている。
駅を出るとそこはもう温泉街で、道沿いには足湯に手湯、駅側に近いというので土産物などが売っている。
このあたり一帯は、駅の近くの温泉街エリアと、温泉街エリアから橋を渡った宿泊施設エリアの、2エリアで構成されている。
川をまたぐ橋は朱色で鮮やかに雪景色に映え、まっすぐに伸びており、橋の上の灯りが川の水面に反射して美しい。
その静かな橋の上を、雪景色を楽しみながらゆっくりと渡る。
橋を渡り切ってすぐ左に温浴施設があり、日帰り入浴を受け付けているようであったので、持参したタオルを引っ提げて中に入る。
どうやら露天風呂もあるらしく、はやる思いで、急いで身体を洗って外の風呂に向かった。
湯に浸かった途端に脳までじんわりと温まる感覚というか、たまらなく幸せな心地がして、目を閉じてしまった。
と、肩にひんやりと冷たいものが落ちる。雪だ。
風呂で火照った体に舞い降りてはひとときに溶けてしまうが、かなり大粒の雪だ。
暑い夏の日に冷房の効いた部屋に入ると気持ち良いように、
湯につかって身体を温めては半身だけ湯から上げて、雪の解ける感覚を味わうのがまた、何とも言えず気持ちがよい。
日帰りではあるが、本当にこの地を訪れてよかった。
帰りたくない。次は絶対に一泊しようと思う。
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