【フリー台本】コンタのくすり【1人用 |10分】

コンタのくすり

頼麦 作

 

この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。

その際、この原作ページのURLを作品などに掲載していただきますよう、お願い申し上げます。

 

むかしむかし、あるところに、狐の親子が仲良く暮らしておりました。

子狐の名前はコンタと言い、お母さんのことが大好きでした。

二人は小さな山の木の影にある洞穴で一日に十分に足るだけの食事をして静かに暮らしておりました。

山は緑の真っ盛りで、木陰にいてもジリジリと肌の焼けるような夏のことであります。

ある日、コンタのお母さんは熱を出して寝こんでしまいました。

いつもならばすぐに風邪薬を出してきて、ゆっくりと休むところなのですが、あいにく今日は風邪薬を切らしておりました。

お母さんは寝床に入って言いました。

「悪いねコンタ、ちょっと医者のたぬきさんのところで、風邪薬をもらってきてくれないかい?」

コンタは答えました。

「わかった。お母さんつらそうだもん。ぼくが行ってくるよ」

コンタはお母さんに薬のお代の油揚げを持たせてもらい、口にくわえて歩き始めました。

しばらく行くと、医者のたぬきさんのところへ通じるいつもの道と近道との岐路に差し掛かりました。

道を間違えないようにゆっくり慎重に歩いていたコンタでしたが、ここでお母さんの辛そうな様子を思い出し、少し焦り始めました。

そして、別れ道の大きな切り株の左側の近道を走って行くことしました。

近道は医者のたぬきさんの所までは早く行けますが、道の片側が急な斜面になっていて大変危険です。

しかし、焦ったコンタは迷わず走り始め、案の定、足を取られて斜面を転がり落ちてしまいました。

ごろごろごろごろ。

どすん。

尻もちをついて見上げた景色はぐるぐると回る隙間空でした。

コンタはしばらくめまいが治まるのを待ち、自分の口に油揚げがあるのを確認して安心しました。

「よし、油揚げは持ってるぞ。あれ、ここはどこだろう?」

辺りを見回すと、すぐ目の前には大きな暗い洞窟がありました。

よく見ると、どこか少し不気味さもあります。

しばらく見ているとすぐ後ろから声がしました。

「おや。珍しいお客さんだね。」

コンタはすぐ近くからの声にびっくりしてしまい、その勢いでまた走り始めました。

走り去るコンタの背後から、くまさんが寂しそうな目で見つめていました。

コンタは一心不乱に走り、少し後ろを振り返ったところで、白い花の咲く木にぶつかりました。

コンタは目を回しながら「今日はついてないのかも知れない」と思い始めました。

しかし、今回も油揚げだけは離しません。

この油揚げがなければ、お母さんの風邪薬をもらうことができないからです。

知らないうちに自分でもわからないところに来てしまったコンタは心細くなりました。

風邪薬を早く届けないとお母さんの病気を治すことができません。

コンタはお母さんの様子だけが気がかりでした。

そうしていると頭上からたくさんの小さな声が聞こえました。

木に巣を構えるハチさんたちです。

ハチさん達は言いました。

「誰だ!僕たちの暮らしを邪魔するのは!」

たくさんのハチさん達がコンタに向かってブンブンと羽音を鳴らして飛んできます。

コンタはびっくりして、すぐに木から離れようと走り始めました。

しかし、いくらしげみを越えようと、木々の間をすり抜けようと、ハチさんたちは追うことを止めてくれません。

そこでコンタはとっさにハチさんたちから逃げるために川に飛び込みました。

流石のハチさんたちも水の中までは追ってこれないだろうと思ったからです。

しかし、コンタはまだ十分に泳ぐ練習をしておりませんでした。

たちまち川の流れに押し流され、バシャバシャと水面でもがきながら流されていきます。

しかも、川に飛び込んだ拍子に、これまで必死にくわえていた油揚げを離してしまいました。

コンタはかすんでいく視界の中でおぼろげにお母さんの顔を思い浮かべました。

風邪薬をもらえなかったらどうしよう。

お母さんの風邪が治らなかったらどうしよう。

コンタの意識は遠のいていきました。

目が覚めると、コンタの顔を覗き込む心配そうな影が目の前にありました。

それは何の偶然か、医者のたぬきさんでした。

あたりを見渡すと、そこはたぬきさんの診療所のある河原でした。

たぬきさんは言いました。

「コンタくん、こんなところで倒れているから何かと思ったよ。けがはないかい?診てあげよう」

しかし、コンタは言いました。

「先生、お母さんが大変なんです。早く風邪薬を飲まないといけないんです。ごめんなさい、お薬のお代は来る途中でなくしてしまいました。でも、どうしても風邪薬が欲しいんです!」

たぬきさんは、自分のことよりもお母さんのことを心配するコンタに心を打たれました。

そして、自分の診療所の方に目をやり、

「ちょっと待っておいで。すぐに風邪薬を持ってきてあげるからね」

と言い、風邪薬とタオルを持ってきてくれました。

コンタは十分に身体が乾くまでタオルで拭いてもらい、風邪薬を受け取ってお礼を言いました。

「ありがとうございます。これでお母さんも元気になれます」

コンタは急いで、でも今度は焦らずお家を目指しました。

無事にお家に帰ったコンタは寝床に入っているお母さんのもとに駆け寄りました。

「お母さん風邪薬もらってきたよ。」

お母さんは

「ありがとう。迷わずに行ってこれたかい」とコンタに聞きました。

コンタは答えました。

「うん、迷わずに行けたよ。お母さん早く元気になってね。」

お母さんは風邪薬を飲んですっかり元気になりました。

しかし、一番の薬はコンタの健気な笑顔だったのです。

 

おしまい

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1 個のコメント

  • 子狐ちゃんの大冒険な初めてのお使いでしたね。親の目の無いところで、子はこんなにも成長するのですね。子どもの純粋な気持ち、母を思う優しさ、迷いのない真っ直ぐな瞳。母として、これほどまでに子の成長を頼もしく思えることはないですね。大人になっても、真っ直ぐで純粋な心忘れずに生きていきたいです。

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