【フリー台本】こぶとりじいさん【1人用 |15分】

むかしむかし、ある山あいの小さな村に、二人のおじいさんが住んでいました。

一人は心の優しいおじいさんで、右のほほに大きなこぶがありました。このおじいさんはいつも明るくて、村の人たちに親切にしていました。

子どもたちが困っていると、すぐに助けてくれるし、お年寄りが重い荷物を持っていると、必ず手を貸してくれるのです。こぶがあっても、みんなから愛されているおじいさんでした。

もう一人は心の狭いおじいさんで、左のほほにこぶがありました。こちらのおじいさんは、いつも不きげんで、人の幸せを見るとうらやましくて仕方がありませんでした。

「なぜあいつばかりみんなに好かれるのだ」

心の狭いおじいさんは、心の優しいおじいさんのことをねたんでばかりいました。

ある日のことです。心の優しいおじいさんは、いつものように山へ薪を拾いに出かけました。お日さまが空に輝いて、とても気持ちのよい日でした。

おじいさんは鼻歌を歌いながら、せっせと木を切っていました。ところが、お昼を過ぎた頃から、急に空が暗くなってきました。

「おやおや、雨が降りそうじゃな」

そう言っていると、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきました。やがて雨は激しくなり、おじいさんは大きな木のうろの中に身を隠しました。

「まあ、雨やどりも悪くない。少し休ませてもらおう」

おじいさんは木のうろの中で、雨の音を聞きながらうとうとしてしまいました。

どのくらい眠ったのでしょうか。ふと目を覚ますと、もうすっかり夜になっていました。雨はやんでいましたが、代わりに不思議な音が聞こえてきました。

「ドンドンドン、チャンチャンチャン」

太鼓やかねの音に混じって、楽しそうな歌声が聞こえてきます。おじいさんがそっと木のうろから顔を出してみると、なんと赤鬼や青鬼、黄色い鬼たちが大きな輪になって踊っているではありませんか。

おじいさんは、その様子をしばらく見ていましたが、鬼たちの踊りがあまりにも楽しそうで、だんだんと体を動かしたくなってきました。

「ああ、わしも踊りたいのう」

ついつい、おじいさんは木のうろから出て、鬼たちの輪の中に入っていきました。

「おーい、人間のおじいさんがきたぞ」

「めずらしいな、こんな夜中に」

鬼たちは、最初はおどろいていましたが、おじいさんの踊りを見て、みんなで手をたたきました。

「おい、なかなかうまいもんだな!」

「こっちまで楽しくなってくるぞ!」

おじいさんの踊りは、本当に心から楽しそうでした。右のほほにこぶがあっても、そんなことは気にせず、音楽の調子に合わせて踊っていました。その姿を見て、鬼たちもいっそう楽しくなりました。

おじいさんと鬼たちは、夜が明けるまで踊り続けました。やがて東の空が白んでくると、鬼の頭領が言いました。

「おじいさん、今夜は本当に楽しかった。また遊びに来てくれないか?」

おじいさんはこたえました。

「ええ、ええ、よろこんで」

「そうか、そうか。ところで、おじいさんのそのこぶは、踊るときに邪魔になるだろう。こちらで預からせてもらおう」

そう言うと、頭領はおじいさんの右のほほのこぶに、手をかざしました。すると、こぶはきれいになくなってしまいました。

「なんと、ありがとうございます」

おじいさんは深々とお辞儀をして、うれしそうに家に帰っていきました。

村の人たちは、おじいさんのこぶがなくなったのを見ておどろきましたが、みんな一緒になってよろこんでくれました。

「よかったねえ、おじいさん」

ところが、これを見ていた心の狭いおじいさんは、うらやましくて仕方がありません。

「なぜあいつだけこぶがなくなったんだ。わしだって、こぶを取りたい」

心の狭いおじいさんは、左のほほにこぶがあることを、とても気にしていました。

「どうやってこぶを取ったんだ?」

心の狭いおじいさんは、心の優しいおじいさんにたずねました。心の優しいおじいさんは、昨夜のことを包み隠さず話してくれました。

「そうか、鬼と踊ればいいのか」

その夜、さっそく、心の狭いおじいさんも山へ出かけました。

「ドンドンドン、チャンチャンチャン」

やがて鬼たちの踊るすがたが見えてきました。心の狭いおじいさんは、すぐに輪の中に飛び込みました。

「おやおや、また人間が来たぞ」

鬼たちは歓迎をしてくれました。ところが、心の狭いおじいさんは、踊りがあまり得意ではありませんでした。

それに、楽しく踊っているのではなく、ただ、左のほほのこぶを取ってもらいたい一心だったのです。踊りながらも、心の中では「早くこぶを取ってくれ」とばかり考えていました。

そのため、踊りはぎこちなく、少しもおもしろくありませんでした。それどころか、だんだんいらいらしてきて、顔も不きげんになっていきました。

それを見た鬼たちは、だんだんしらけてきました。

「なんだ、こやつは。つまらんなあ」

「昨日のおじいさんとは大違いだ」

それでも心の狭いおじいさんは、こぶを取ってもらいたい一心で、必死に踊り続けました。でも、心から楽しんでいない踊りは、見ている人にも伝わってしまいます。

ついに鬼の頭領が言いました。

「もう十分だ。今夜はこれで終わりにしよう」

それを聞いた心の狭いおじいさんは、あわてて言いました。

「ちょっと待ってください。わしのこぶも取っておくれ」

鬼の頭領はしかめっ面で言いました。

「楽しく踊れないやつのこぶは取ってやらんぞ。はんたいに、くっつけてやる」

そう言うと、鬼の頭領は、心の狭いおじいさんの右のほほに手をかざしました。すると、昨日心の優しいおじいさんから預かったこぶが、そこにくっついてしまったのです。

「これで昨日預かったこぶも片付いた。めでたし、めでたしだ」

こうして、心の狭いおじいさんは、顔の右と左、両方のほほにこぶがついてしまいました。おじいさんはがっかりして家に帰り、おいおい泣きながら、自分の心の狭さを反省しました。

次の日、心の優しいおじいさんが、こぶの二つあるおじいさんのところにやってきました。

「おや、こぶが増えてやしませんか」

心の優しいおじいさんは、おどろきました。

こぶの二つあるおじいさんは、しょんぼりしながら、昨夜のことを話しました。話を聞いた心の優しいおじいさんは、こぶの二つあるおじいさんをかわいそうに思いました。そして、肩をさすってやりながら言いました。

「元気になったら、一緒にこぶを取ってもらえるよう、お願いをしに行こう」

その日から、二人のおじいさんは仲良くなりました。

こぶの二つあるおじいさんは、少しずつ人に優しくできるようになりました。子どもたちが困っている時はすぐに助け、お年寄りが重い荷物を持っていると、必ず手を貸しました。

村の人たちも、こぶの二つあるおじいさんの心変わりに気づき、ふっくらとしたこぶのある顔をだんだんと好きになっていきました。

そして、ある満月の夜、おじいさん二人はそろって山へ出かけました。そうして、まずは鬼たちに混じって、仲良く、楽しく踊りました。

「ドンドンドン、チャンチャンチャン」

鬼たちも大喜びです。

「いいぞ、なんて楽しい夜だ!」

「こぶのあるじいさんもなかなかやるじゃないか!」

踊りが終わると、鬼の頭領が言いました。

「二人とも、今夜はありがとうな。そっちの、こぶの二つあるじいさん。この前は楽しくなくて、ついいじわるをしてしまったが、今日は本当に楽しかった。こぶを取ってやろう」

しかし、こぶの二つあるおじいさんは言いました。

「いいや、このままで大丈夫じゃ。こぶがあっても、楽しく生きることはできるからのう」

心の優しいおじいさんはおどろきましたが、こぶの二つあるおじいさんの晴れやかな顔を見て、安心しました。

それからというもの、二人のおじいさんは村で一番の、仲の良い友だちどうしになりました。今でも時々は山へ行って、鬼たちと一緒に、楽しく踊っているそうです。

おしまい

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