カチカチ山
夜咄 頼麦 作
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この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。
その際、この原作ページのURLを作品などに掲載していただきますよう、お願い申し上げます。
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むかしむかし、山のふもとの小さな村に、心優しいおじいさんとおばあさんが住んでいました。毎日、二人は畑で野菜を育て、静かで平和な暮らしをしていました。
ある日のこと、おじいさんが畑で豆をまこうと土を耕していますと、山からずる賢いたぬきがやってまいりました。たぬきはいたずらをするのがとても好きで、いつも悪いことばかりを考えておりました。
「おじいさん、そこの土を耕せていませんよ」
たぬきはおじいさんに声をかけました。そして、おじいさんが土に気を取られた隙に、まくはずだった豆を全部食べてしまったのです。
「豆がなくては、作物が育たない。悪いことをするなら、おしおきをするよ」
おじいさんは、たぬきを縄で縛り上げ、家の天井から吊るしておきました。そして、新しい豆を買いに町まで出かけて行きました。
家で休んでいたおばあさんは、吊るされて泣いているたぬきを見て、かわいそうに思いました。
「おばあさん、僕が悪うございました。もう二度と悪いことはいたしません。どうか許してください」
たぬきはうその涙を流して謝りました。おばあさんはその姿を見て、つい縄を解いてしまいました。
「もう悪いことをするんじゃないよ」
おばあさんはそう言って、もちつきを始めました。
ところが、縄が解かれたたぬきは、おばあさんの様子を見て、悪い考えを起こしました。
「おばあさん、もちつきを手伝いましょう」
そう言って杵を奪い取ると、たぬきはおばあさんをたたいて、縛り上げ、家の蔵に閉じ込めてしまったのです。そして家中の食べ物を食い荒らし、二人が大事にしていた家具まで壊してしまいました。
おじいさんが帰ってまいりますと、家の中はめちゃくちゃで、おばあさんは蔵の中で泣いておりました。おじいさんとおばあさんは深く悲しみ、二人は毎日毎日、壊された家の中で途方に暮れておりました。
「おばあさん、わしが町に行かなければ、こんなことには…」
おじいさんとおばあさんの泣く声は、隣の山に住む心優しいうさぎの耳にも届きました。うさぎは前からおじいさんとおばあさんと仲が良く、ときどき、二人から野菜をもらったこともありました。
「おじいさん、おばあさん、私がたぬきに反省をさせます」
うさぎは二人に約束をしました。
次の日、うさぎはたぬきのところへやってまいりました。
「たぬきさん、一緒に薪を拾いに行きませんか。村の人たちに、薪をお配りしようと思うのです」
たぬきは面倒に思いましたが、しぶしぶうさぎに付き合うことにしました。山で薪を集めていますと、うさぎはこっそり、たぬきの背負った薪に火を点けました。
「あつい、あつい!どうなっているんだ!」
たぬきは背中に大やけどを負ってしまいました。
「まあ、大変。でも大丈夫です、良い薬を知っております」
うさぎは言いました。しかし、うさぎが持ってまいりましたのは、味噌に唐辛子を混ぜたものでございました。そうとは知らずにこれを塗り込んだたぬきの背中はますますひどくなりました。
「痛い、痛い!どうしてこんなに痛いんだ!」
たぬきは泣きながら転げ回りました。しかし、うさぎはさらに提案をしました。
「たぬきさん、船を作って川に出ましょう。魚を取って食べれば、きっと元気が出ますよ」
うさぎはそう言って、泥で船を作らせました。たぬきが泥の船に乗りますと、船はたちまち水に溶けて沈んでしまいました。たぬきは川に落ち、溺れそうになりました。
「助けて、助けて!僕は泳げないんだ!もう嘘はつかないから!心から反省するから!」
たぬきは川の中で必死に叫びました。うさぎは川に飛び込み、たぬきを助けてあげました。
濡れて震えているたぬきを見て、うさぎは優しく声をかけました。
「誰かにいじわるをされる気持ちがわかったかい。わかったなら、一緒におじいさんとおばあさんのところへ謝りに行こう」
たぬきは初めて、心からの反省をしました。自分の行いがどれほど人を傷つけていたのか、やっと分かったのです。
二匹はおじいさんとおばあさんのもとへ向かいました。おじいさんとおばあさんはたぬきの心変わりに驚きました。しかし、たぬきが心から謝っているのを見て、その気持ちは本当だと思いました。
「たぬきや、お前が本当に反省しているなら、わしたちも許そう。ただし、これからは村の人々のために働きなさい」
それからというもの、たぬきは毎日おじいさんとおばあさんの畑仕事を手伝い、壊してしまった家具も一生懸命に直しました。そして、村の人たちの荷物を運び、困っている人がいれば助けるようになりました。
うさぎもたぬきと一緒に村の人たちを支え、みんなと家族のように仲良くなりました。山のふもとの小さな村には、いつも温かい笑い声が響くようになり、おじいさんとおばあさんの顔にも、笑顔が戻りました。
こうして、村のみんなで助け合いながら、末永く幸せに暮らしましたとさ。
おしまい
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