【フリー台本】十二支の由来【1人用 |15分】

むかしむかし、まだ世界が今よりもずっと平和で、動物たちが人間の言葉を話していた時代のことです。

天の上に、とても心やさしい神さまが住んでいました。神さまは毎日、雲の上から地上を見下ろして、動物たちが元気に暮らしている様子を見ていました。

ところが、動物たちはいつもけんかばかりしていました。

「ぼくが一番強い」

「わたしが一番美しい」

「おれが一番はやい」

このように、みんなが自分のことばかりを考えていたのです。

神さまは困ってしまいました。

「このままでは、動物たちはいつまでたっても仲良くできない。何かよい方法はないものか」

そんなある日のことです。神さまはふと、すばらしいことを思いつきました。

「そうだ。みんなで力を合わせる大切さを教えてあげよう。そして、がんばった動物たちには、特別な役目をあげることにしよう」

神さまは、美しい金色の筆で手紙を書きました。

「親愛なる動物のみなさんへ。一月一日の朝、わたしの待つ山の頂上に一番から十二番目までに来たものを、一年交代で動物の大将にします。みんなで仲良く、がんばってください。神さまより」

この手紙は、風にのって全国の動物たちのもとへ届きました。手紙を読んだ動物たちは、大喜びをしました。

「やったあ!ぼくも動物の大将になれるかもしれない!」

「がんばるわ!きっと一番になってみせる!」

動物たちは、みんな目を輝かせていました。

ところが、猫だけは少し困った顔をしていました。猫は字を読むのがあまり得意ではなかったのです。そこで、ネズミに手紙を読んでもらうことにしました。

ずるがしこいネズミは間違ったことを教えました。

「えーっと、『一月ニ日の朝』って書いてあるね」

期限を「一月二日の朝」だと思いこんでしまった猫は、お正月はのんびり毛づくろいをして、過ごすことにしました。

さて、動物たちの中でも、牛は足がはやくありませんでした。でも、牛はとても努力家でした。

「ぼくは足がおそいから、みんなよりも早く出発しよう」

なんと牛だけは、お正月の二日前、十二月三十日の夕方から歩き始めたのです。

「ぼくはぼくのペースで歩くぞ」

牛は山に向かってはじめの一歩を踏み出しました。その時、小さなネズミがちょこちょこと牛のそばにやってきました。ずるがしこいネズミは牛に向かって言いました。

「牛さん、牛さん。ぼくは足がちっちゃくて、みんなにおいて行かれそうなんです。背中にのせてもらえませんか?」

牛は心のやさしい動物でした。

「いいとも、いいとも。一緒にがんばろう」

そう言って、ネズミを背中にのせてくれました。

さて、大晦日の夜がやってきました。動物たちはお正月の朝に到着できるよう、いっせいに神さまの待つ山の頂上を目指して出発しました。

道中では、いろいろなことがありました。

犬と猿は、最初は仲良く並んで走っていました。お互いをはげまし合いながら進んでいきます。

「がんばろうね」

「うん、がんばろう」

ところが、だんだん疲れてくると、二匹とも必死になってしまいました。

「ぼくの方がはやい」

「いや、ぼくの方がはやいよ」

このように、言い合いを始めたのです。

そしてとうとう、川にかかった丸太橋の上で、大げんかを始めてしまいました。

「わんわん、ぼくの方が強いんだ!」

「きっきっ、ぼくの方が頭がいいんだ!」

二匹は橋の上で取っ組み合いを始めて、どちらも川に落ちてしまいました。このけんかのせいで二匹はかなり遅れてしまいました。

そうして、いよいよ一月一日の朝がやってきました。新年の太陽が、美しく空にのぼりました。

一番はやく歩きはじめた牛が、一番に神さまの前に現れました。牛は疲れていましたが、がんばって歩いてきたことを誇らしく思っていました。

牛が神さまに新年のあいさつをしようとした、その時です。牛の背中にのっていたネズミがぴょんと飛び下り、神さまの前に走っていきました。

「チュウ!神さま、新年おめでとうございます!」

こうして、一番はネズミになってしまいました。

牛は悔しがりました。

「モゥモゥ!そんなのずるいよ!」

神さまは牛に言いました。

「牛さん、あなたはネズミさんを助けてあげたのですね。とても心やさしいことです。二番目でも、りっぱな動物の大将ですよ」

牛は神さまの言葉をきいて、気持ちを落ち着かせました。

続いて、しま模様の美しい虎がやってきました。虎は一気に山をかけ上ってきたので、息をはあはあさせていました。でも、三番目に到着できて、とても喜んでいました。

その後、ぴょんぴょん跳ねるのが得意なウサギがやってきました。ウサギは川を渡る時、石から石へと上手に飛び移ってきたのです。ウサギは四番目でした。

次に現れたのは、なんと空を飛ぶ龍でした。龍なら空を飛んで一番になることもできたはずなのに、五番目だったことを神さまはふしぎに思いました。

「龍さん、どうして一番じゃなかったの?」

龍は答えました。

「途中で、雨が降らなくて困っている村を見つけたんです。だから雨を降らせてから来ました」

神さまは龍の思いやりに感動しました。

「龍さん、あなたは本当に立派です」

こうして、次々に動物たちが到着しました。六番目にしゅるしゅるとヘビが現れ、七番目にはパカパカと馬が駆けてきました。八番目には羊が、九番目には猿がやってきました。

十番目には美しい鳥が羽ばたいてきて、十一番目には犬が猿に負けて少し悔しそうにやってきました。そして十二番目には猪が真っ直ぐに走ってきました。

最後の十二番目が決まった時、遅れて一匹のカエルがやってきました。カエルは十三番目になってしまったので、がっかりして「もうカエル、もうカエル」と言いながら、池の方へ帰っていきました。

さて、十二支が決まると、神さまは動物たちをねぎらって、お祝いの宴会を開きました。美味しい食べ物がたくさん用意され、動物たちはみんな幸せそうに食べたり飲んだりしていました。

ところが、そこへものすごい剣幕で猫が現れました。

「ネズミー!どういうこと!競争の日は一月二日じゃないの!?」

猫は自分が勘違いしていることに気づいて、あわてて追いかけてきたのです。でも、もう遅すぎました。

ネズミは「ひゃあ、ごめんなさい!」と言いながら、猫から逃げ回りました。

神さまは、十二支の動物たちに言いました。

「みなさん、今日はいろいろなことがありましたね。ずるをしてしまった子、けんかをしてしまった子、人を助けた子、がんばった子。でも、みんなそれぞれに大切なことを学んだことでしょう」

「これからは、一年交代でみんなの大将をつとめてください。一番大切なことは、お互いを思いやり、助け合うことです。それを忘れずに、みんなで力を合わせて、よりよい世界を作っていってください」

動物たちは神さまの言葉を聞いて、深くうなずきました。ネズミも、猫に追いかけられたことで反省して言いました。

「ずるをしてごめんなさい。これからは正直にがんばります」

こうして、十二支の動物たちは、それぞれの年に大将をつとめることになりました。

そして、龍に村を救われた人間たちも十二支を大切にして、毎年のお正月には、その年の動物に感謝をささげるようになったそうです。

おしまい。

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