むかしむかし、まだ世界が今よりもずっと平和で、動物たちが人間の言葉を話していた時代のことです。
天の上に、とても心やさしい神さまが住んでいました。神さまは毎日、雲の上から地上を見下ろして、動物たちが元気に暮らしている様子を見ていました。
ところが、動物たちはいつもけんかばかりしていました。
「ぼくが一番強い」
「わたしが一番美しい」
「おれが一番はやい」
このように、みんなが自分のことばかりを考えていたのです。
神さまは困ってしまいました。
「このままでは、動物たちはいつまでたっても仲良くできない。何かよい方法はないものか」
そんなある日のことです。神さまはふと、すばらしいことを思いつきました。
「そうだ。みんなで力を合わせる大切さを教えてあげよう。そして、がんばった動物たちには、特別な役目をあげることにしよう」
神さまは、美しい金色の筆で手紙を書きました。
「親愛なる動物のみなさんへ。一月一日の朝、わたしの待つ山の頂上に一番から十二番目までに来たものを、一年交代で動物の大将にします。みんなで仲良く、がんばってください。神さまより」
この手紙は、風にのって全国の動物たちのもとへ届きました。手紙を読んだ動物たちは、大喜びをしました。
「やったあ!ぼくも動物の大将になれるかもしれない!」
「がんばるわ!きっと一番になってみせる!」
動物たちは、みんな目を輝かせていました。
ところが、猫だけは少し困った顔をしていました。猫は字を読むのがあまり得意ではなかったのです。そこで、ネズミに手紙を読んでもらうことにしました。
ずるがしこいネズミは間違ったことを教えました。
「えーっと、『一月ニ日の朝』って書いてあるね」
期限を「一月二日の朝」だと思いこんでしまった猫は、お正月はのんびり毛づくろいをして、過ごすことにしました。
さて、動物たちの中でも、牛は足がはやくありませんでした。でも、牛はとても努力家でした。
「ぼくは足がおそいから、みんなよりも早く出発しよう」
なんと牛だけは、お正月の二日前、十二月三十日の夕方から歩き始めたのです。
「ぼくはぼくのペースで歩くぞ」
牛は山に向かってはじめの一歩を踏み出しました。その時、小さなネズミがちょこちょこと牛のそばにやってきました。ずるがしこいネズミは牛に向かって言いました。
「牛さん、牛さん。ぼくは足がちっちゃくて、みんなにおいて行かれそうなんです。背中にのせてもらえませんか?」
牛は心のやさしい動物でした。
「いいとも、いいとも。一緒にがんばろう」
そう言って、ネズミを背中にのせてくれました。
さて、大晦日の夜がやってきました。動物たちはお正月の朝に到着できるよう、いっせいに神さまの待つ山の頂上を目指して出発しました。
道中では、いろいろなことがありました。
犬と猿は、最初は仲良く並んで走っていました。お互いをはげまし合いながら進んでいきます。
「がんばろうね」
「うん、がんばろう」
ところが、だんだん疲れてくると、二匹とも必死になってしまいました。
「ぼくの方がはやい」
「いや、ぼくの方がはやいよ」
このように、言い合いを始めたのです。
そしてとうとう、川にかかった丸太橋の上で、大げんかを始めてしまいました。
「わんわん、ぼくの方が強いんだ!」
「きっきっ、ぼくの方が頭がいいんだ!」
二匹は橋の上で取っ組み合いを始めて、どちらも川に落ちてしまいました。このけんかのせいで二匹はかなり遅れてしまいました。
そうして、いよいよ一月一日の朝がやってきました。新年の太陽が、美しく空にのぼりました。
一番はやく歩きはじめた牛が、一番に神さまの前に現れました。牛は疲れていましたが、がんばって歩いてきたことを誇らしく思っていました。
牛が神さまに新年のあいさつをしようとした、その時です。牛の背中にのっていたネズミがぴょんと飛び下り、神さまの前に走っていきました。
「チュウ!神さま、新年おめでとうございます!」
こうして、一番はネズミになってしまいました。
牛は悔しがりました。
「モゥモゥ!そんなのずるいよ!」
神さまは牛に言いました。
「牛さん、あなたはネズミさんを助けてあげたのですね。とても心やさしいことです。二番目でも、りっぱな動物の大将ですよ」
牛は神さまの言葉をきいて、気持ちを落ち着かせました。
続いて、しま模様の美しい虎がやってきました。虎は一気に山をかけ上ってきたので、息をはあはあさせていました。でも、三番目に到着できて、とても喜んでいました。
その後、ぴょんぴょん跳ねるのが得意なウサギがやってきました。ウサギは川を渡る時、石から石へと上手に飛び移ってきたのです。ウサギは四番目でした。
次に現れたのは、なんと空を飛ぶ龍でした。龍なら空を飛んで一番になることもできたはずなのに、五番目だったことを神さまはふしぎに思いました。
「龍さん、どうして一番じゃなかったの?」
龍は答えました。
「途中で、雨が降らなくて困っている村を見つけたんです。だから雨を降らせてから来ました」
神さまは龍の思いやりに感動しました。
「龍さん、あなたは本当に立派です」
こうして、次々に動物たちが到着しました。六番目にしゅるしゅるとヘビが現れ、七番目にはパカパカと馬が駆けてきました。八番目には羊が、九番目には猿がやってきました。
十番目には美しい鳥が羽ばたいてきて、十一番目には犬が猿に負けて少し悔しそうにやってきました。そして十二番目には猪が真っ直ぐに走ってきました。
最後の十二番目が決まった時、遅れて一匹のカエルがやってきました。カエルは十三番目になってしまったので、がっかりして「もうカエル、もうカエル」と言いながら、池の方へ帰っていきました。
さて、十二支が決まると、神さまは動物たちをねぎらって、お祝いの宴会を開きました。美味しい食べ物がたくさん用意され、動物たちはみんな幸せそうに食べたり飲んだりしていました。
ところが、そこへものすごい剣幕で猫が現れました。
「ネズミー!どういうこと!競争の日は一月二日じゃないの!?」
猫は自分が勘違いしていることに気づいて、あわてて追いかけてきたのです。でも、もう遅すぎました。
ネズミは「ひゃあ、ごめんなさい!」と言いながら、猫から逃げ回りました。
神さまは、十二支の動物たちに言いました。
「みなさん、今日はいろいろなことがありましたね。ずるをしてしまった子、けんかをしてしまった子、人を助けた子、がんばった子。でも、みんなそれぞれに大切なことを学んだことでしょう」
「これからは、一年交代でみんなの大将をつとめてください。一番大切なことは、お互いを思いやり、助け合うことです。それを忘れずに、みんなで力を合わせて、よりよい世界を作っていってください」
動物たちは神さまの言葉を聞いて、深くうなずきました。ネズミも、猫に追いかけられたことで反省して言いました。
「ずるをしてごめんなさい。これからは正直にがんばります」
こうして、十二支の動物たちは、それぞれの年に大将をつとめることになりました。
そして、龍に村を救われた人間たちも十二支を大切にして、毎年のお正月には、その年の動物に感謝をささげるようになったそうです。
おしまい。
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