もくじ
出逢い
甘く濃密な時間を過ごした。
十月三日。
役満こそ逃したが、衝撃の一日だった。
東真直との出逢いだ。
実を言うと、彼のことは一年以上前から認識していた。
当時から気になる存在ではあったが、それぞれが同時代の対岸に居て、交わることはないと思っていた。
言ってしまえば、苦手意識すらあった。
言語化方法の違いのせいだったのか、それともただの同族嫌悪だったのか、今となってはわからない。
この男に惚れ込んでしまったためだ。
交わるはずの無い者同士がそれぞれの岸から時代の海を泳いだ結果、同じ島に流れ着いたのだと思う。
兎に角、僕らは出逢った。
遠慮
初めは互いに遠慮があったように思う。
言葉を紡いでは確認する、どこか気遣い合う会話。
初々しく、卓上で間合いの探り合いをしていた。
先に切り込んだのは彼だった。
暫く言葉に窮したが、流さずに受ける選択は英断だったと思う。
この会話をきっかけに、一気に打ち解けた。
場風は一変し、和やかな空気となる。
美しい変化
生い立ちから今に至るまでを共有し、次第に互いを知った。
僕らは泳げずとも、藻掻くより他はなかった。
渦に飲まれて浮き沈もうとも、鳴くしか手は無くとも、藻掻き続ける他はなかった。
流れ着いた今だって、また泳ぎ出すことを考えれば渦中には違いないのかも知れない。
しかし、この島までの軌跡と僕らの変化は紛れもなく美しい。
きっと、この先の海も泳いでいける。
彼は僕にそう思わせてくれた。
大切な思い出
いつか、この秋の思い出を振り返る日が来るだろう。
僕が「今日は大切な日になる気がする」と伝えると、
彼は「ぼくもそう思う」と返した。
互いに相手を一枚上手に感じる稀有な存在。
それでいてどこか懐かしく親しみ深い存在。
そんな人間に出逢えた、十月三日。
遠慮、美しい変化、大切な思い出。
全てこの出逢いの日、十月三日の花「イロハモミジ」の花言葉である。
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