渦中の魚

目的もなく乗った山手線で

たまたますんなり座れてしまった

後の予定まで時間があったので

そのまま一周してみることにした

 

サングラスをかけたビジネスマン

厚底靴を履いたギャル

スーツケースにまたがる子ども

 

あらゆる人々がぬるい車内で

ひと時の縁を共にしている

 

乗る駅や降りる駅は違っても

抱える荷物はそれぞれでも

今だけは同じ電車に呑み込まれ

同じ円の外周を走っている

 

電車は人を呑んでは吐き出し

呑んでは吐き出し

一日の始まりから終わりまで

新陳代謝し回り続けるのだ

 

まるで潮目に生まれて

魚を呑み続ける大渦だ

 

僕は大渦に巻き込まれた

たった一匹の魚であったのだ

流れに抗えず呑まれた

たった一匹の魚であったのだ

 

ビジネスマンは降りた

ギャルは爪を気にしている

子どもは眠ってしまった

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