蝶の使い

車を停めて坂を下ると

石造りの墓が整然と並んでいる

右手には持参した花を

左手には水を汲んだバケツを持ち

照りつける太陽の下

ご先祖様の眠る場所を探す

一人で来るのは初めてだったから

暫しの間、立ち尽くした

吹き抜ける風

ひらひらと飛ぶ蝶を目で追うと

視線の先に名字が見えた

「よお来たな、こっちやで」

懐かしい声が聞こえた気がして

微笑みながら目を細め

僕は一歩を踏み出した

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