【フリー台本】さるかに合戦【1人用 |15分】

さるかに合戦

夜咄 頼麦 作

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この文章の著作権は夜咄頼麦に帰属しますが、朗読についての著作使用権は解放しております。YouTubeでの朗読、声劇、そのほか音声表現活動などで自由にお使いください。

その際、この原作ページのURLを作品などに掲載していただきますよう、お願い申し上げます。

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むかしむかし、あるところに、さるかにがいました。

ある日、蟹がおにぎりを持って川沿いを歩いていると、かきたねを持った猿と出会いました。

猿は蟹のおにぎりをうらやましく思い、蟹にこう持ちかけました。

「蟹さん、蟹さん、そのおにぎりと、この柿の種をえっこしないかい」

蟹は、それを聞いていやそうにこたえました。

「柿の種ですか。柿の種なんて、かたくて食べられないじゃないですか」

猿は、どうしてもおにぎりがしかったので、知恵ちえはたらかせて説得せっとくしました。

「いやいや、柿の種をえると、柿の木ができる。柿の木には沢山たくさんがなるだろう。今はただの種かもしれないが、うまくいけば沢山の柿を食べられるんだ。でも、蟹さんが嫌というなら仕方しかたがないな」

「いやいや、待ってください。是非ぜひとも、おにぎりと柿の種を交換こうかんしてください」

こうして、蟹はおにぎりとえに、柿の種をもらってかえりました。

蟹の家には種を植える場所がありませんでしたから、柿の種は森の広場の片隅かたすみに植えることにしました。

「早くを出せ、柿の種。出さねば、はさみでちょんるぞ」

しばらくすると、小さな柿の芽が出ました。

「早く木になれ、柿の芽よ。ならねば、はさみでちょん切るぞ」

しばらくすると、大きな柿の木が育ちました。

「早く実がなれ、柿の木よ。ならぬとはさみでちょん切るぞ」

しばらくすると、沢山の柿の実がなりました。

蟹は柿が実って大喜おおよろこびしましたが、よく考えると自分では柿をとることができません。そこで、広場に居合いあわせた、先程さきほどの猿にたのんでみることにしました。

「猿さん、猿さん。おっしゃるとおりに柿の種を植えたら、沢山の実がなりました。でも、実の位置いちが高くて、はさみがとどきません。少し柿を食べていいですから、代わりにとってもらえませんか」

猿は少し考え、いいことを思いつきました。

「よし、いいだろう。代わりにとってきてやる。」

猿はするすると木にのぼると、柿の実を手に取りました。そして、えだにまたがり、そのままむしゃむしゃと食べ始めました。よくれた実を、次々に食べていきます。

「猿さん、猿さん。私にも柿をこしてください」

蟹は、しびれを切らして声をかけました。

猿は自分だけ手が届くのをいいことに、蟹には、まだじゅくしていない青い柿をげつけました。蟹は地面に落ちた実をかじって言いました。

「猿さん、猿さん。こんな青い柿ではしぶくて食べられません」

猿は面倒めんどうに思いながら、少し熟れた実を投げてやりました。蟹は地面に落ちた実をかじって言いました。

「猿さん、猿さん、こんな青い柿では渋くて食べられません」

猿はうるさく思いながら、もう少し熟れた実を投げてやりました。蟹は地面に落ちた実をかじって言いました。

「猿さん、猿さん、こんな青い柿では渋くて食べられません」

猿は苛立いらだちながら、仕方なく熟れた実を投げつけました。しかし、投げたところがいけませんでした。

投げた柿の実はぐに蟹に向かい、仰向あおむいた蟹のあたまに当たりました。蟹は目をまわしてたおれ、猿はおどろいてげ出してしまいました。頭に怪我けがをして、意識いしきうしなった蟹は、森の動物たちによって川の家に運ばれました。

さて、蟹には子どもがいました。事件じけんから数日後すうじつご子蟹こがにが家に帰ると、親蟹おやがに怪我けがをして寝ていましたから大変です。子蟹はあわててりました。

「一体何があったの。ああ、頭がこんなに赤くれてる」

親蟹は起きたことを子蟹に話して聞かせました。それを聞いた子蟹は、なげかなしみました。そして、のない思いをかかえて言いました。

「猿にひとこと言ってくる。そうでなければ気がまない」

親蟹は子蟹のたける様子を見て心配に思い、こうさとしました。

「気持ちは嬉しいよ。ありがとうね。でも、そうこと荒立あらだてることもないんだよ。どうしても行くと言うなら、柿を取ってもらってきておくれ。大事に育てたのに、満足まんぞくに食べられなかったことだけが心残こころのこりだよ」

子蟹はそれを聞いて、少し気持ちが落ち着きました。そして、親蟹の助言じょげんで友達を頼ることにしました。

子蟹は、友達のうすはちくりあつめて事情じじょう説明せつめいしました。

「そういう訳で、猿の家に行きたいのだけど、なるべく穏便おんびんませたい。手土産てみやげを作るのを手伝ってくれないか」

それを聞いた三人は顔を見合わせ、口々くちぐち反対はんたいしました。臼は言います。

「猿が親御おやごさんに柿を投げつけたってうわさは森中にひろがってる。ひどいやつだな」

蜂は言います。

「今、猿の奴は森で悪者わるものにされてる。わざわざかかわりに行くものじゃない」

栗は言います。

「お前もひどい目に合うぞ。会いに行くのは反対だし、手伝ってやれないな」

子蟹は、この一件が森中の噂になっていることを初めて知りました。そして、それでも猿と話をしに行きたいと思いました。

「そんなに噂になっているなんて知らなかった。でも、自分だってその場にいた訳じゃない。どうしても、猿から直接話を聞きたいんだ。手伝ってくれ、この通りだ」

子蟹ははさみを地面につけて頼みました。

「そうか。お前がそう言うなら」

三人の友達は、手土産づくりを手伝ってあげることにしました。

臼は仕事道具しごとどうぐ小麦粉こむぎこを頭に乗せ、蜂は大事な蜂蜜はちみつそそぎ、栗は自分の実をけずりました。そうして出来上できあがった栗だんごを持って、子蟹は猿の家に出かけました。

猿の家に着くと、猿は部屋のすみで小さくなってふるえていました。そして、入ってきた子蟹に気づくと、さらにちぢこまってしまいました。ひどくほそっているように見えます。子蟹は猿の様子を見て不思議ふしぎに思い、たずねました。

「うちの親とのいさかいについて、話をしにきました。でも、その前に。何かあったようですが、どうかしたのですか」

子蟹は、小さくふるえる猿に向かって聞きました。猿は、少しの沈黙ちんもくの後、小声でおそる恐る話し始めました。

「先日の親御さんとの件では、申し訳ないことをした。最初はちょっとした出来心できごころで柿の実をひとめしていたのだが、だんだんと気が立ってしまった。まさか、投げた実を直に当てて怪我けがをさせてしまうなんて。本当にすまないことをした。」

子蟹はだまって話を聞いています。

「実は、親御さんにもらったおにぎりではらこわし、たりをしてしまったところもあるんだ。今回のことで森の動物たちからはことい事も言われ、嫁には愛想あいそを尽かされた。もう、森にも家にも居場所いばしょはない。全ては私の臆病おくびょうな性格のせいだ。ごめん、ごめんな」

猿はだんだんと涙声なみだごえになってしまいました。子蟹は、流石さすがに猿のことを可哀想かわいそうに思い始めました。このままでは、この森で生きていくこともむずかしいでしょう。そこで子蟹は、こう提案ていあんしました。

「話はわかりました。私自身、まだ猿さんのことを完全かんぜんゆるせたわけではありませんが、事情じじょう理解りかいしました。ならば、一緒いっしょに柿の実を取りに行ってください。とったものをおびの品としてわたしてくだされば、それで手を打ちましょう」

それを聞いた猿は、森の広場に出かけることを思い浮かべ、頭をかかえてしまいました。あの事件から、森の動物たちに嫌なことをされたり、言われたりしたのでしょう。当然のむくいと言えばそうですが、もう十分ぎる気もしました。

「私も一緒について行きますから。まずはこれでも食べて、元気を出してください」

子蟹は、手土産の栗だんごを差し出しました。猿はそれを受け取り、口にしました。数日ぶりに食べるまともな食事に、大粒おおつぶの涙がこぼれます。猿は夢中むちゅうで食べつづけました。

がたい。有り難いなあ」

その様子を見ていた子蟹も、どこか心のりたような気がしました。

猿と子蟹は、って森の広場にやってきました。猿は、多くの動物たちに見つめられながら、柿の実をいくつか収穫しゅうかくし、ふくろにまとめて子蟹に渡してやりました。そして、森のみんなに向かって言いました。

「この度はおさわがせしてしまい、もうわけありませんでした。今回のことはしっかりと反省はんせいし、今後は心をあらためて生きていきます。本当に、申し訳ありませんでした」

猿は深々ふかぶかと頭を下げました。となりで、子蟹もはさみを下げました。森の動物たちも納得なっとくしたのか、りに森へ帰っていきました。

その後、猿は言葉通りに言動げんどうを改め、嫁猿よめざるにも見直されました。今は心身ともに健康で、つつましく暮らしているそうです。

子蟹は柿の入った袋を持ち帰り、親蟹に食べさせました。親蟹はそれらを美味おいしそうに食べ、泣いて喜びました。子蟹はその種を残しておいて、森の広場に植えに行ったそうです。

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1 個のコメント

  • 令和の猿蟹合戦、楽しかったです。
    昔話なので、子蟹は幼いかと思いきや、事件から数日後に家に帰って…という記述で、自立して1人で生活している事がわかります。
    ひと言で背景を伝える台本作り 流石です。

    「ひとこと、言ってたやらないと気が済まない」といきり立つ
    子蟹に、親蟹が静かに制する場面など
    現代に減っていて、取り戻したい親子関係や、友達に相談する事の大切さを、優しく教えられている気がしました。

    手土産を3人で作るところは微笑ましい。
    身を削る事を厭わない。特に栗さん。笑ってしまったけれど、
    友を思う心からの気持ちの行為ですよね。
    アンパンマンがちらっとよぎりました。自己犠牲…

    猿から事実を聞き出す子蟹、あんなに怒っていたのに、
    事情を話す猿の言葉に耳を傾ける。

    銃弾を撃ち込まれたら、ロケット弾を放つ事が起こるこの世界において、話し合いで解決するというオーソドックスな
    アプローチを選んだ作者。
    この方法は、とっても正解だと思いました。

    こういう、おおらかさ、心の余裕が、いま、とっても大事なんだと考えさせられましたよ。
    頼麦さんの真意、心根が、私の解釈ですが、すごく心に沁みました。
    令和の作家 夜咄頼麦さん、
    またひとつ、素敵なオリジナルストーリー出来ましたね。
    子ども達に読み聞かせたいお話です。
    ありがとうございます。

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