樹齢五百年のご神木。

こんなはずではなかった。

片道30分で十分に辿り着くはずの温泉だ。

初めに道を一本間違えただけで、随分と遠くまで来てしまった。

入りって大切だな。

これは今日気づいたのだが、僕は地図の通りに目的地に向かわないから、いけない。

Googleマップに示された道を辿るうちに、気になるものが見えたら、そちらにフラフラ向かってしまう。

その積み重ねでいつも迷子だ。

途方に暮れながら畑のあぜ道を自転車で走っていると、右手の畑の向こうに、こんもり茂った緑と白い鳥居が見えた。

気になる。

既に迷子であることを承知で、また罪を重ねた。

枝垂れる立木のトンネルをくぐり、鳥居の少し手前に自転車を停める。

足元には大量のドングリだ。

自転車に鍵をかけて鞄を背負うと、カラス達が警戒の声をあげた。

ごめんなさいね。

少しだけ、おじゃましますよ。

鳥居前で深々と頭を下げると、積もり積もった落ち葉が目に入る。

忘れ去られた神社。

久しく人の参った形跡はない。

周囲は野鳥の声で包まれ、文明が急に遠のいたようだ。

手水舎の水は枯れ、本堂のしめ縄はほつれている。

静かに降り積もった時間が哀愁を纏わせていた。

紙垂が一枚だけ下がっていることが気になった。

五円玉がなく、五十円玉で代用する。

賽銭箱には柔らかいフォントの象形文字で”納奉“と書かれていた。

時代の流れを感じる。

ご挨拶と、お話にする許可だけ勝手にいただき、頭を上げた。

ふと見ると、左手に脇道が見える。

何気なく、惹かれるままに足を運ぶと、驚くべき光景に出逢った。

樹齢五百年の立派なご神木。

外皮には老人の皮膚のような皺が寄り、節が遠くを見つめている。

遥か遠く、雲も越えて、海まで見通しているようにすら感じた。

上方に放射状に広げた枝は、一本一本が幹のようだ。

この地域全体に、赦しの手を差し伸べているように見えた。

僕の目は釘付けになり、口はだらしなく開いていた。

僕は、ちっぽけだ。

あまりに小さく、若く、儚い。

ただ、畏敬の念だけが胸を満たした。

屋久杉も見た経験があるが、ここまで立派な杉は屋久島でも奥地にしか生息していなかった記憶がある。

屋久島は神様にお呼ばれしなければ赴けないという。

この場所も、そうなのか。

今日迷ったのも、きっとお導きだったんだな。

一礼して神社をあとにする。

今度こそ真っ直ぐに温泉を目指す。

自転車を漕ぎながらお話の展開を練り、湯に浸かることもそこそこにノートに書きなぐった。

これだから、寄り道は辞められない。

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4 件のコメント

  • 寄道楽しいですよね。一緒に出掛けている人がいると、突然居なくなる私は迷惑な相手でしょうけど( ̄∇ ̄*)ゞ気になるものは、気になるし見たい!好奇心には、敵いません。気ままに神社巡りとかも、したいなぁなんて思い出させて頂きました。これからも、素敵な寄道してください(*´∀`)

  • お気に入りのロードバイクでのお出掛けでしたか?
    サイクリングに良い季節ですね、まだ紅葉には早いですかね。

    やはりヘルメットは被ります?
    前傾姿勢のドロップハンドルは、楽なのでしょうか?

    次回のサイクリング、雑草日記で教えて頂ければ嬉しいです。
    御利益のお裾分け、ありがとうございます^ ^

  • らいむぎさんの寄り道、素敵ですね。
    これは、お導きだったに違いありませんね。私は、そう感じてなりません。
    現在の、らいむぎさんの姿を見つめ、
    これからの反映を応援するかの如く、
    御神木へ導いて下さったのではないでしょうか。
    らいむぎさんの、お人柄こその出来事ですね。
    私は、一推しで末長く応援させていただきますので、宜しくお願いいたします。

  • 頼麦さんこんにちは!私もバイクで知らない所に行く際、ナビに従わず突き進んで迷ったことが多々あります。
    ここにコメントすべきではないのかもしれませんが、プロフィールを読ませていただきました!
    頼麦さんを知ったのは最近の寝付けなかった夜なのですが、まずは今を生きててくださって、ありがとうございます。
    私の想像を絶する辛いことがあったにも関わらず、それを忘れるのではなく、振り返り反芻する強さを身につけておられるところ、すごく尊敬します。
    伝えたいことはまだありますが、頼麦さんにYouTubeを通じて出会えてよかったと思っています。
    これからも楽しみにしております、そして応援しています。

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