泥人形

静寂。

整頓され過ぎた机。

開かれっぱなしの辞書。

白い壁に少しの緑。

また、静寂。

目を閉じる。

・・・

・・

霹靂。

指先が言葉の欠片を叩き始める。

最近は紙の上に書くことばかりで、電子上に記すことから遠ざかっていた。

このまま指を走らせてみよう。

・・・

・・

気づけば葉月も暮れに差し掛かり、虫の声が聴こえる。

きっと、あの場所でも、鳴いているのだろう。

流れ流れて辿り着いた場所には、何変わらぬ日常があった。

荷物を背負っては降ろし、背負っては降ろす日々。

摩耗をした心は、いつしか人を信ずることを嫌い、

理想に燃えることも、暖かな陽だまりを描くことも辞めてしまった。

飽きた。

飽きて、しまった。

面の上では取り繕っていても、胸の内は燻んでおり、

虚しき欲望に取り憑かれた泥人形の虚ろな目には、

北極星の光も届かない。

座右の銘は擦り切れ、全ての成果は過ぎ去った。

私はただの、観客席に座った泥人形だ。

・・・

・・

日常の隅々まで行き渡った倦怠感は、慢性的に心を鈍らせ、

魂は澱んだ水底に沈んでいく。

遠く朧げな水面の向こうには、薄っすらと輝きが見えるが、

(いや、それすらも幻か)

伸ばした指先は虚しく、水の抵抗を感じるばかり。

せめて水が泥を洗い流してくれれば、どれだけ楽だろう。

ああ、喉にまとわりついた藻屑で息ができない。

苦しい。

苦しい。

・・・

・・

あれ、

こんなことが書きたかったのだろうか。

・・・

・・

静寂。

整頓され過ぎた机。

開かれっぱなしの辞書。

空の器に虚ろな目。

また、静寂。

目を閉じる。

・・・

・・

そうか、

これが、今の僕だ。

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